最近のミラーレスカメラの進化には目を見張るものがあります。息をのむような高画質な写真はもちろん、まるで映画のような4K、さらには8Kといった超高解像度動画、そして一瞬を逃さない高速連写機能まで、プロの現場で使われるような機能が、より身近なものになってきました。
しかし、その性能をフルに引き出すには、データを記録するメモリーカード選びが重要です。最近ではSDカードのほかに一部の上位機種カメラに使用できるCFexpress Type Bカードというものも出てきました。ですが、『SDカードにも複数の種類があるし、CFexpress Type Bカードは最近出てきたものでいまいちよくわからない』と悩んでいませんか?
今回は、ミラーレスカメラで広く使われている「SDカード」と、プロフェッショナルを中心に注目を集める「CFexpress Type Bカード」という二つの主要な選択肢について、それぞれの特徴やメリット・デメリットをより深く掘り下げ、あなたの撮影スタイルや目的に最適なカード選びができるよう、詳しく解説していきます。
SDカード 身近で使いやすい、長年の定番メディア
SDカードは、デジタルカメラの黎明期から活躍し、今ではパソコンやタブレット、スマートフォン(microSDとして)など、私たちの生活の様々な場面で目にする、最もポピュラーな記録メディアと言えるでしょう。その長い歴史の中で、容量や速度は着実に進化を遂げてきました。
種類と容量 進化の歴史
- SD (SDSC): 最大2GB。初期の規格で、現在ではほとんど見かけません。
- SDHC: 2GB超~32GB。FAT32ファイルシステムを採用し、多くの機器で利用可能。フルHD動画程度なら十分対応できます。
- SDXC: 32GB超~2TB。exFATファイルシステムを採用し、大容量化を実現。高画素なRAW写真や4K動画など、ファイルサイズが大きくなる現代の撮影スタイルに必須の規格です。一般的には1TBまでの製品が流通しています。
- SDUC: 2TB超~128TB。exFATを採用しつつ、将来の超大容量化を見据えた規格ですが、対応機器はまだ限定的です。
このように、SDカードは時代とともに増大するデータ量に対応するため、着実に容量を拡大してきました。特にSDXCの登場により、高画質化・高機能化するカメラの要求に応えられるようになりました。
基本的にカメラに使用するSDカードの規格はSDXCのものを選びましょう。
速度 あなたの撮影に必要なスピードは?
SDカードの速度は、撮影体験に直接影響します。特に動画撮影や連写では、カードの書き込み速度がボトルネックにならないよう、適切な規格を選ぶことが重要です。
- スピードクラス (C): C2, C4, C6, C10。最低保証書き込み速度をMB/秒で示します (例: C10 = 10MB/s)。基本的な写真撮影やHD動画向けです。
- UHSスピードクラス (U): U1 (10MB/s), U3 (30MB/s)。UHS (Ultra High Speed) バスインターフェースに対応し、より高速な転送を実現します。フルHD動画や一般的な4K動画撮影、ある程度の連写にはU3が推奨されることが多いです。
- ビデオスピードクラス (V): V6, V10, V30, V60, V90。最低保証「持続」書き込み速度をMB/秒で示します (例: V30 = 30MB/s)。高解像度・高フレームレート動画のスムーズな記録に特化した規格です。4K/60p動画などではV30以上、高ビットレートの4K動画や8K動画、圧縮率の低いコーデックでの撮影、バッファ解放を早くしたい高速連写にはV60やV90が必要になります。ビットレート(1秒あたりのデータ量)が高い映像ほど、高速な書き込みが可能なカードが求められます。
- UHSバスインターフェース: UHS-I (最大104MB/s), UHS-II (最大312MB/s), UHS-III (最大624MB/s)。カードとカメラ(またはカードリーダー)の両方が同じ規格に対応している必要があり、特にUHS-II対応カードは、PCへのデータ転送時間も大幅に短縮できるメリットがあります。
カメラで使用する際の速度については、「連射をするか」、「動画を撮るか」と言う点を考慮して選択すればいいかと思います。
連射や動画撮影を行う場合は、ビデオスピードクラスで言えばV60以上を選びましょう。ただしUHSバスインターフェースには注意が必要です。
最新のカメラでもUHS-IIに対応していない機種もあるので、自分が持っているカメラが対応している規格をメーカーHP等で確認してから購入してください。
メリット・デメリット まとめ
- メリット: なんと言っても手頃な価格と、カメラだけでなくパソコンなど多くの機器で直接使える汎用性の高さが魅力です。様々なメーカーから多様な容量・速度の製品が販売されており、選択肢が豊富です。
- デメリット: CFexpress Type Bと比較すると、理論上の最高速度や、特に「持続的な」書き込み性能で劣ります。そのため、最新カメラが持つ最高画質設定での動画撮影(特に高ビットレートのRAW動画など)や、メモリーバッファを即座に解放する必要がある長時間の高速連写では、書き込みが追いつかずに撮影が中断したり、連写速度が低下したりする可能性があります。また、物理的な構造上、CFexpressに比べて端子部分が露出しており、頻繁な抜き差しや、埃っぽい環境、衝撃などに対してややデリケートで、耐久性の面では一歩譲る可能性があります。microSDカードをアダプター経由で使う場合、接触不良などのトラブルが起きる可能性もゼロではありません。

CFexpress Type Bカード プロの要求に応える、次世代の高速性能
CFexpress Type Bカードは、XQDカードの後継規格としても位置づけられ、その圧倒的な転送速度によって、プロフェッショナルフォトグラファーやビデオグラファーから急速に支持を広げています。
圧倒的な速度 その秘密は?
CFexpress Type Bカードの驚異的な速度は、パソコンの高性能ストレージであるNVMe SSDと同じ「PCI Express (PCIe)」インターフェースと「NVMe」プロトコルを採用している点にあります。これは、従来のSDカードが採用するインターフェースとは根本的に異なり、データの通り道を大幅に広く、高速にしたものです。これにより、SDカード(UHS-II)の数倍にも達する読み書き速度を実現しています。
- 読み取り速度: 撮影後のデータをPCに転送する時間が劇的に短縮され、編集作業へスムーズに移行できます。数百GBのデータ転送も、従来よりはるかに短時間で完了します。
- 書き込み速度: 特に重要なのが「最低持続書き込み速度」です。これが高いほど、高ビットレートの動画(例えば、8K RAW動画やProResコーデックなど)をコマ落ちすることなく安定して記録できます。また、高速連写時にも、大量の画像データを瞬時にカードへ書き込めるため、カメラのバッファメモリーがすぐに解放され、シャッターチャンスを逃さず、より長く連写を続けることが可能になります。スポーツや野生動物など、一瞬の動きを捉えたい撮影で大きなアドバンテージとなります。
大容量化への対応
SDカード(SDXC)の最大容量は規格上2TBですが、CFexpress Type Bはそれを超える容量も視野に入れた設計となっています。すでに2TBや4TBといった大容量カードも登場しており、長時間の動画撮影や膨大な枚数のRAW画像を扱うプロのニーズに応えます。
メリット・デメリット まとめ
- メリット: 圧倒的な転送速度により、高解像度動画(8K、RAW、高フレームレート4K)の安定記録、バッファ詰まりのない快適な高速連写を実現します。PCへのデータ転送も高速で、撮影後のワークフロー全体が効率化されます。一般的にSDカードよりも堅牢な構造を持っているとされる点もメリットです。将来登場するであろう、さらに高性能なカメラにも対応できる可能性が高い「未来への投資」とも言えます。
- デメリット: SDカードと比較して、カード自体の価格が高価です。また、その性能を最大限に引き出すためには、対応する高速なカードリーダーも必要となり、初期投資が大きくなる傾向があります。現状では、主にハイエンドクラスのカメラに採用が限られており、SDカードほどの汎用性はありません。

互換性 あなたのカメラはどちらのカードに対応?
カード選びの前提として、お使いのカメラがどの種類のカードスロットを搭載しているかを確認することが最も重要です。
- SDカードスロット: ほとんどのエントリーモデルからハイエンドモデルまで、多くのミラーレスカメラに搭載されています。ただし、スロットがUHS-Iまでしか対応していない場合、UHS-II対応の高速SDカードを使用しても、その性能をフルに発揮できない点に注意が必要です(UHS-Iの速度で動作します)。
- CFexpress Type Bスロット: 主に、各メーカーのフラッグシップ機や上位モデルに採用されています。キヤノン (EOS R3, R5など)、ニコン (Z 9, Z 8, Z 7II/Z 6IIなど)、ソニー (α1, α7S IIIなど ※一部Type Aモデルあり)、パナソニック (LUMIX S1/S1R, GH6など)、富士フイルム (GFX100 II, X-H2/X-H2Sなど) といった機種で見られます。
- デュアルスロット: 最近の高性能カメラでは、CFexpress Type BスロットとSDカードスロット(UHS-II対応が多い)の両方を搭載する「デュアルスロット」が主流になりつつあります。これにより、撮影の信頼性を高めたり、ワークフローを最適化したりするなど、以下のような戦略的で柔軟な使い方が可能です。
- バックアップ記録: 両方のスロットに同じデータを同時に記録し、万が一のカードトラブルに備える。
- 振り分け記録: RAWデータを高速なCFexpress Type Bへ、JPEGデータをSDカードへ記録する。あるいは、動画をCFexpress Type Bへ、静止画をSDカードへ記録するなど。
- リレー記録: 一方のカードがいっぱいになったら、自動的にもう一方のカードへ記録を継続する。
- CFexpress Type A: ソニーの一部のカメラ(α7 IV, α7S III, FX3など)では、より小型の「CFexpress Type A」カードが採用されています。Type Bとは互換性がないため、注意が必要です。
購入前には、必ずカメラメーカーの公式サイトや取扱説明書で、対応するメモリーカードの種類と規格(速度クラスなど)を確認しましょう。
価格帯 性能とコストのバランスを見極める
メモリーカードの価格は、容量と性能(特に書き込み速度)によって大きく変動します。
SDカード
- 比較的手頃な価格の製品が多く、大容量でも入手しやすくなっています。
- ただし、UHS-II対応でV60やV90といった高性能なカードは、それなりに高価になります。
- GB単価で考えると、コストパフォーマンスに優れる選択肢が多いです。
CFexpress Type Bカード:
- 一般的に、同じ容量のSDカード(特にUHS-I)と比較すると高価です。
- 特に大容量・高性能なモデルは、プロ向けの価格設定となっています。
- 最低持続書き込み速度が高いモデルほど高価になる傾向があります。
- カード本体だけでなく、高速転送に対応した専用カードリーダーのコストも考慮に入れる必要があります。
予算と、自身の撮影に本当に必要な性能レベルを見極めることが重要です。オーバースペックなカードを選んでも、その性能を活かせなければ無駄な投資になってしまいます。逆に、性能が足りないカードを選ぶと、撮影の快適性を損なったり、撮りたいものが撮れなかったりする可能性があります。
あなたへのおすすめはどっち? 最適なカード選びの指針

結局のところ、どちらのカードが「絶対的に良い」というわけではなく、あなたの撮影スタイル、使用するカメラ、そして予算によって最適な選択は異なります。
SDカードがおすすめな人
- 日常スナップや旅行写真がメインの方: 主にJPEGで撮影し、たまにフルHD動画を撮る程度であれば、手頃な価格のSDHC/SDXCカード(UHS-I, U3/V30程度)で十分快適です。
- 趣味で風景やポートレートを撮る方: RAWでじっくり撮影し、標準的なフレームレート(24p/30p)の4K動画を撮る場合も、比較的高速なSDXCカード(UHS-II, V60など)で対応できることが多いでしょう。
- コストパフォーマンスと汎用性を重視する方: 複数のカメラやデバイスでカードを使い回したい、初期投資を抑えたい場合には、SDカードが有利です。
- デュアルスロットのバックアップ用として: メインにCFexpress Type Bを使いつつ、JPEGバックアップや低負荷な記録用にSDカードスロットを活用するのも賢い使い方です。
CFexpress Type Bカードがおすすめな人
- プロのスポーツ・報道・野生動物フォトグラファー: 高速連写性能を最大限に活かし、決定的な瞬間をRAWで確実に捉えたい方。バッファクリアの速さが重要になります。
- 本格的なビデオグラファー: 8K動画、6K/4Kの高フレームレート(60p/120pなど)、高ビットレートのRAW動画やLog撮影など、カメラの持つ最高レベルの動画性能を引き出したい方。安定した高速書き込み性能が不可欠です。
- 最新の高性能カメラのポテンシャルをフル活用したい方: カメラの性能を記録メディア側で制限したくない、常に最高のパフォーマンスを求める方。
- 将来的なカメラのアップグレードを見据えている方: 今後、より高性能なカメラに買い替える可能性がある場合、CFexpress Type Bカードへの投資は将来性があると言えます。
- 撮影後のデータ転送時間を短縮したい方: 大量のデータを扱う場合、ワークフローの効率化に大きく貢献します。
まとめ
ミラーレスカメラの記録メディア選びは、カメラ本体と同じくらい重要な要素です。SDカードは、その手頃な価格と幅広い互換性で、多くのユーザーにとって依然として魅力的な選択肢です。一方、CFexpress Type Bカードは、圧倒的なスピード性能で、プロフェッショナルや最先端の機能を求めるハイアマチュアの要求に応えます。
大切なのは、ご自身の主な撮影対象(静止画中心か、動画中心か、連写は多用するかなど)、求める画質や性能レベル、お使いのカメラのスペック、そして予算を総合的に考慮することです。まずは『今の自分の撮影で、一番ストレスを感じている点は何か?』と考えてみるのも良いかもしれません。この記事を参考に、あなたの撮影スタイルにぴったりのメモリーカードを見つけて、素晴らしい写真・映像体験をさらに快適なものにしてくださいね!
