フォクトレンダー NOKTON 35mm F1.2 X-mountで『撮る』ということ。F1.2の世界観とマニュアル操作の真の魅力

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以前から欲しいと思っているレンズが何本かあるのですが、今回そのうちの1本を購入しちゃいました。

それは撮影行為そのものへの深い喜びを与えてくれる特別な一本、コシナが誇る伝統のブランド「フォクトレンダー」から生まれた「NOKTON 35mm F1.2 X-mount」です。

今回はその魅力を余すところなくお伝えしたいと思います。

目次

スペックについて

以下に、Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mountの主要スペックを一覧で示します。

項目仕様
焦点距離35mm(フルサイズ換算53mm相当)
口径比1:1.2
最小絞りF16
レンズ構成6群8枚
画角44°
絞り羽根枚数12枚
最短撮影距離0.3m
最大撮影倍率1:6.7(フルサイズ換算1:4.5)
最大径×全長Φ59.6×39.8mm
フィルターサイズΦ46mm
重量196g
マウントX-mount
発売日2021年9月28日

このレンズは、単に「明るく写るレンズ」という言葉だけでは語り尽くせません。オートフォーカスの利便性が当たり前になった現代において、あえてマニュアルフォーカスという手間のかかる操作を楽しむレンズになっています。

外観について

レンズの外観について見ていきましょう。

レンズそのものは非常にコンパクトで196gと軽量な部類ですが、金属鏡筒ということもあり持った感じは大きさの割にずっしりとした感じを受けました。

X-H2に装着した状態です。長さはグリップ部分からちょっとだけはみ出た感じで、実際につけてみてもかなりコンパクトだと感じます。

フードを付けた状態です。フードも非常に短くコンパクトなもので、付けてもほとんど長さは変わらないですね。

正面から見た画像です。このレンズはよくX-ProシリーズやX-Eシリーズが似合うと言われています。確かにそちらの方がレンズのイメージにも合うと思いますが、X-H2も悪くないと思いませんか?

カメラを使う側から見るとこんな感じですね。

レンズの特徴について

このレンズの最大の特徴はスペックの部分でも書きましたが、このレンズはMF(マニュアルフォーカス)という点です。自分でピントリングを調節してピントを合わせる必要があります。このレンズを使う上ではオートフォーカスが主流のこの時代に敢えてマニュアルフォーカスのレンズを使うという意味を考えないといけません。

撮影者がカメラと真摯に向き合い、光を読み、ピントを合わせ、絞りを決める。その一連の動作を通じて、一枚一枚を丁寧に作り上げていく『撮影体験』そのものを、このレンズは格別に豊かなものへと昇華させてくれます。それは、結果としての『作品』だけでなく、そこに至るまでの『過程』すべてを楽しむ、それがこのレンズとの向き合い方になると思います。

次に性能面について書いていきたいと思います。

開放F1.2が生み出す、圧倒的な描写力と美しいボケの魔法

このレンズを語る上で、なんといってもF1.2という驚異的な大口径を避けては通れません。この明るさがもたらすのは、息をのむほど美しく、なめらかで大きなボケ味です。APS-Cセンサーのカメラでありながら、まるでフルサイズセンサーで撮影したかのような、被写体が背景からふわりと自然に浮かび上がる、圧倒的な立体感を表現できます。この立体感は、ピントが合った面から背景に向かって、とろけるようになだらかにボケていく「ボケ足の美しさ」に支えられています。

その美しいボケをさらに際立たせるのが、12枚構成の円形絞りです。これにより、夜景のイルミネーションや木漏れ日などを撮影した際の「玉ボケ」は、角が立つことなく限りなく真円に近く、非常に柔らかく描写されます。

絞り開放付近では、あえて収差を『味』として残した設計により、オールドレンズを彷彿とさせるような、柔らかな光のにじみを伴った幻想的な描写が生まれます。例えばポートレートでは肌の質感をより滑らかに、夜の街灯は絵画のように淡く溶け、被写体を優しく包み込むような表現が可能です。

この計算され尽くした「味」こそが、解像度や収差補正を突き詰めた現代のレンズとは一線を画す、NOKTONならではの抗いがたい個性なのです。もちろん、少し絞れば(F2以上)現代レンズのようにクリアでシャープな描写へと変化するため、撮りたい表現に合わせて一本で多彩な表情を楽しめるのも大きなメリットです。富士フイルムの「クラシックネガ」や「エテルナ」といったフィルムシミュレーションと組み合わせれば、そのノスタルジックな描写はさらに深まり、まるで映画のワンシーンのような一枚を生み出すことも夢ではありません。

指先に伝わる感動 所有欲を満たす極上の操作性とビルドクオリティ

フォクトレンダーのレンズは、その卓越した作り込み、いわゆるビルドクオリティの高さでも世界中の写真愛好家から高い評価を得ています。このNOKTON 35mm F1.2もその伝統を色濃く受け継いでいます。総金属製の鏡筒は、手に取った瞬間にずっしりとした心地よい重厚感と、ひんやりとした金属ならではの高級感を伝えてくれます。その剛性感は、単に所有欲を満たすだけでなく、長年にわたる使用にも耐えうる信頼性の証でもあります。

ピントリングを回した時の感触は、まさに「極上」の一言に尽きます。精度高く加工され、高品質なグリスが充填されたヘリコイドは、しっとりと滑らかに、そして適度なトルク感を伴って動きます。

これにより、富士フイルムのカメラが持つフォーカスピーキング機能や拡大表示と組み合わせることで、ミリ単位の繊細なピント合わせが驚くほど快適に行えます。また、1/3ステップでカチッと小気味よく決まる絞りリングの操作感も、機械を操る喜びをダイレクトに感じさせてくれます。

オートフォーカスが主流の今だからこそ、このようなマニュアル操作の楽しさや、レンズと対話しながら一枚を創り上げる撮影体験は、デジタル時代の効率性とは対極にある、何物にも代えがたい深い価値があると感じさせてくれるはずです。

あらゆるシーンに対応する、万能な画角と近接撮影能力

このレンズの焦点距離は35mm。富士フイルムのXマウントボディに装着すると、35mmフルサイズ換算で約53mm相当の画角になります。これは人間の視野に近い「標準画角」と呼ばれ、見たままの自然な遠近感で世界を切り取ることができるため、非常に扱いやすいのが特徴です。

広すぎず、狭すぎないこの画角は、街角の何気ない光景を捉えるスナップショットから、被写体の背景を適度に整理できるポートレート、目の前の料理を美味しそうに写すテーブルフォトまで、特定のジャンルに偏ることなく、日常のあらゆるシーンでその能力を発揮してくれます。

さらに、最短撮影距離が0.3mと比較的短いです。被写体にグッと寄ることができるため、遠景を撮るときよりもさらに大きなボケを活かした、ドラマチックな写真を撮影できます。例えば、カフェのテーブルで湯気の立つコーヒーカップに寄れば、背景の喧騒は美しいボケの中に溶け去り、カップだけが静かに浮かび上がります。花やアクセサリーのディテールを写し取るときも、その質感や色彩を開放F1.2の柔らかなボケ味で包み込み、主題をより一層引き立てることが可能です。この近接撮影能力が、標準レンズとしての汎用性をさらに高めています。

使いこなしのポイント 知っておきたい開放描写の特性

この魅力的なレンズの購入を検討する上で、一つだけ正直に知っておくべきことがあります。それは、開放F1.2での描写が良くも悪くも非常に個性的であるという点です。前述の通り、開放時には周辺光量落ちが見られたり、逆光や高コントラストなシーンではパープルフリンジ(被写体の輪郭に現れる紫色の色ずれ)が発生することがあります。また、全体の描写はシャープネスよりも雰囲気を重視したソフトなもので、少しふんわりとした印象になります。

強い光源があるとゴーストが出る。

これを「性能が低い」という「欠点」と捉えるか、あるいは「表現の幅を広げる」「味」と捉えるかで、このレンズの評価は180度変わります。もしあなたが、写真の隅々まで均一でシャープな描写を求めるのであれば、少しイメージと違うかもしれません。しかし、このオールドレンズのようなノスタルジックな雰囲気を、意図した表現の一部として積極的に活用したいと考えるユーザーにとっては、これ以上ない魅力となるでしょう。

例えば、周辺光量落ちを活かして自然なビネット効果を生み出し、被写体に視線を集める。あるいは、パープルフリンジを恐れずにハイキーな表現に挑戦し、幻想的な光の世界を描き出す。このレンズの個性を理解し、乗りこなし、使いこなすことこそが、NOKTON 35mm F1.2を最大限に楽しむための鍵となります。

作例

最後に、撮影した作例をいくつかご紹介します。

まとめ 写真撮影を「体験」として楽しみたいあなたへ

フォクトレンダー NOKTON 35mm F1.2 X-mountは、ただ被写体を高画質に記録するための単なる道具ではありません。卓越したビルドクオリティと官能的な操作感、そして開放F1.2が織りなす個性的で美しい描写を通じて、撮影プロセスそのものを深く味わい尽くすための、いわば「楽器」のようなレンズです。

  • オールドレンズのような「味」や「雰囲気」のある描写を心から愛する方 完璧な描写よりも、感情に訴えかけるような写真表現を追求したい方に最適です。
  • じっくりと被写体と向き合い、マニュアルフォーカス撮影のプロセスそのものを楽しみたい方 効率やスピードよりも、一枚を創り上げるまでの時間と対話を大切にする方に。
  • 富士フイルムのフィルムシミュレーションと組み合わせて、唯一無二の表現を追求したい方 レンズの個性とカメラの個性を掛け合わせることで、自分だけの画作りを探求したい方に。
  • 所有する喜びと使う喜びを満たしてくれる、高品質でコンパクトなレンズを探している方 性能だけでなく、モノとしての佇まいや質感を重視する審美眼を持った方に。

このレンズは、万人受けする優等生ではありません。しかし、だからこそ、上記のような特定の価値観を持つユーザーにとっては、他のどんなレンズにも代えがたい、唯一無二のパートナーとなる可能性を秘めています。あなたの写真ライフに、新たなインスピレーションと感動をもたらしてくれるこの魔法のレンズを、ぜひ一度その手に取ってみてはいかがでしょうか。

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